「上手な失敗」の2要素。明確な狙いがあること、コストが学習サイズであること。
「上手な失敗」がある
「自分の子どもに教えたいことはありますか」と聞かれたら、何が思い浮かびますか?
私はたくさんのことが思い浮かぶのですが、あえてひとつ選ぶとしたら「失敗にはだめな失敗と上手な失敗がある」かなと思っています。
私がこれを教えてもらったのは、高校1年生の頃でした。
明確な狙いを持つ
私はサッカー部に所属していて、そのときはシュートの集中特訓にチーム全体に取り組んでいました。
取り組み方が少し変わっていて、ひとつのメニューだけを期間限定でひたすらやっていました。メニューの名前は「マシンガン」と言います。バウンドさせたボールをゴールに蹴り込むだけのシンプルな練習でした。練習の目的は、ドライブシュートという、縦回転がかかった、下方向に強烈に曲がるシュートを打てるようになることでした。ちょうど、こちらの動画の5:00頃にあるような打ち方、シュートです。
一見、単純で簡単そうに見えますが、バウンドしているボールを狙った軌道で打ち込むのは非常に難しく、何も考えていないとゴールのはるか上を行く「ホームラン」を打ってしまいます。姿勢・蹴りの角度・タイミングなどを意識し、ボールに体重を載せてトップスピン(前への縦回転)をかけることが重要です。
期間中、ひたすらこのメニューをやってドライブシュートを練習していました。最初は私も「ホームラン打ち放題」だったのですが、練習して少しずつ精度が上がっていくのを実感しました。ああでもない、こうでもないと、何本もシュートを撃ちながら感覚を確かめていきます。
練習の途中、私が「ゴールの枠からは外れたしスピードは遅いが、縦回転はしっかりかかっている」シュートを打ったことがありました。それまでの「ホームラン」やボテボテの「ゴロ」とは違う、簡単に言うと「完成度は低いが、方針は合っている」という「惜しい」シュートでした。キーパーに止められはしたものの、イメージに一歩近づいた感覚がありました。
そのシュートを見て顧問の先生がこう言ってくれたんです。
「なかがわ、今のはいい失敗や。狙いのある上手な失敗や。」
そのとき人生で初めて「失敗にも上手い・下手がある」ということをはっきりと認識したんです。
先生が言ってくれたのは、要するに「こう蹴ったらこうなるんじゃないか」という仮説検証をちゃんとしているねということなんですが、それは今まで「ただ必死に」練習をしていた自分とは一線を画すものでした。明確な狙いを持って「実験」してみることで、それまでとは違う「少しずつ前進している感覚」を得られたのです。
以後、他の練習でも、学校の勉強でも、なんでも、「狙いを明確に持ちながらやってみて、結果を検証する」という癖がつきました。やって嫌になるだけの「ただの失敗」はめっきり減りました。あの「惜しい」シュートは、私にとって値千金の一本でした。
コストを「学習サイズ」に抑える
もうひとつ、「上手な失敗」に欠かせない要素があります。それは「コストが小さいこと」です。
このことを深く理解できる有名なエピソードがあります。
1959年、イギリスでクレーマー賞という人力飛行機の懸賞競技が始まりました。その内容は、800メートル離れた2本の塔を8の字に旋回できれば5万ポンド、イギリス海峡を単独で横断できれば10万ポンドというものです。
当時の技術力で言えばこの課題は全く無理な要求というわけではありませんでした。しかし、競技開始から17年もの間、これをクリアしたチームは現れませんでした。多くのチームが多額の資金とたくさんの時間をかけて機体を作っていましたが、たった数秒で墜落してしまうこともありました。
ポール・マクレディは、資金力を持つ大規模なチームと全く逆のアプローチを取りました。他のチームが数ヶ月から1年の月日をかけて洗練された大きな機体を作ろうとしていた一方、マクレディは数時間で作り直せる軽量な飛行機を作ったのです。これにより、他のチームが一度事故を起こすと半年は飛べなくなっていたのに対し、マクレディの機体「ゴッサマー・コンドル」は1日に4回飛行することもありました。
マクレディのチームは検証サイクルをひたすら回し、わずか3ヶ月の間に222回の飛行を行いました。そして223回目の飛行で見事クレーマー賞を受賞したのです。その2年後、彼の作った別の機体がイギリス海峡を単独で横断し、マクレディは再びクレーマー賞を受賞しました。
このように、失敗のコストを小さく抑えることができれば仮説検証を何度も行うことが出来ます。試行回数が増えれば増えるほど成功に近づきます。
失敗しやすさは挑戦しやすさにつながり、挑戦しやすさは「打席数」につながる。挑戦回数が多いほど成功したときの喜びも大きいでしょうから、失敗のコストを下げる工夫はいつでも大切にしたいですね。
何度も何度も積み重ねられる、非常にコストの小さい失敗。『エッセンシャル思考』などの著者として有名なグレッグ・マキューンは、これを「学習サイズの失敗」と表現しています。
まとめ
というわけで、失敗には「上手な失敗」というものがあって、それはこの2つの要素を持ち合わせた失敗です。
- 明確な狙いを持っている
- 支払うコストが「学習サイズ」である
これを自分の子どもにはうまく伝えて、早いうちからたくさん失敗してもらえたらなーと思っています。
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